生成AIが世に広まりだしてからあっという間に数年が経ちました。
AIの進歩速度は凄まじく、今では様々なサービスに組み込まれ実用化されています。
その中でもグラフィック分野、特にイラスト界隈では未だに根強い反発があり、SNSでは毎日AI賛成派とAI反対派の論争が見られます。
今回はこの問題について、絵描きサイドから見た個人的な仮説を記事にまとめました。
- 生成AI賛成派だけど反対派の気持ちがよくわからない
- どちらにも属していないけれど、何が起きているのか知りたい
そんな方の現状把握の参考になれば幸いです。
生成AIに反発する大きな理由4つ
絵描きや絵師、(以下クリエイター)が反発する背景には、大きく4つの理由があると考えられます。
- 生成AIに関する法律が整っていないため
- AIの学習方法とデータベースに問題があるため
- 生成AI利用者のモラルが著しく低いため
- クリエイターのアイデンティティを揺るがす技術のため
順番に説明していきますね。
1.生成AIに関する法律がまだ整っていない
生成AIの研究と、AIを使用して出力されたものに関しての具体的な法律はまだ整っていません。
先駆けて欧州やアメリカではガイドラインなどが締結されましたが、具体的な罰則や制裁がかかるルールは2024年のこれから適用されるという段階です。
AIを規制する法律の現状は?日本とEUの比較と対策ポイントを解説
引用リンク:弁護士法人 モノリス法律事務所
日本でもガイドライン制定は急がれており、文化庁がAI事業者・クリエイター・一般市民を対象にパブリックコメントを募集している期間がありました。
パブコメの結果と会議の議事録は以下のサイトに掲載されています。興味のある方は目を通してみてください。
法整備が遅い事を盾にした悪用が多い
この無法地帯を利用してやりたい放題やってしまった業者・利用者がすでに存在し、その被害にあった人や問題視している人から大きなヘイトが生まれています。
イメージしてみてください。
急に泥棒が入ってきて何かを取ったり自分に危害を加えてきたとして、それを通報する場所も、守ってくれる機関も、裁かれる法もない状況なんです。かなり不安になりますよね。
2.学習方法とデータベースに問題がある
データベースがブラックボックス化している
2024年、生成AIが学習先としていたデータ収集先に児童ポルノの画像が含まれていることがニュースになりました。
生成AI、児童ポルノ画像を学習か…専門家「被害者の人権侵害恐れ」
引用リンク:読売新聞オンライン
生成AIが精度の高い出力をするためには何十億という学習素材が必要です。
しかし、それらの素材「データセット」はどこから持ってきているのかは公開されていない場合が多く、違法な個人ブログ・ダークウェブなど、よくない場所にもアクセスしている可能性が浮上しています。
あなたが作ったAI画像の元データに犯罪者がアップロードした画像が含まれている可能性がある、ということです。
この危険性のあるデータセットを使ったサービスが、何の規制もなく使われている現状に危機感を覚えるクリエイターが多いようです。
作品の著作権が守られない
そのような犯罪に抵触する危険性以外にも、全ての画像を無許可・無報酬で学習可能という状態にクリエイターは憤っているのが現状です。
現状、AI研究の一貫としてネットに公開されている情報を学習する際許可を取る必要はない、とされています。
研究目的で収集されるならまだ良かったのですが、これにより作られたAIを商用展開する業者が現れました。
さらに、このデータセットに特定の個人作風を学習させることで完璧に絵柄を似せた生成AIを作り出す「LoRa」という技術ができたことで、クリエイターの危機感は一気に上昇しました。
生成AIを特定の絵柄に特化させる「LoRA」 著作権の考え方は? 弁護士が解説
引用リンク:ITmediaNEWS
3.生成AI利用者のモラルが著しく低い
生成AIを積極的に利用している・その活動を発信している利用者にモラルの低い人がとても多いのが現状です。
一部開発者もクリーンな利用よりもお金儲けの機会を逃さない方を重視し、クリエイターの権利や主張は無視して進んでいる状況があります。
「技術の発展」を盾に意見を封殺しようとする利用者(一部開発者も)
生成AIが一気に広まった頃に多くいた人達です。
「日本の技術発展のため」「他国との技術競争に勝つため」「世界全体の利益のため」「障がい者や絵が描けない人の新しい創作機会だ!」
というもっともそうな意見を盾に、反発するクリエイターは古い体質で技術発展を阻害する、などの反論を繰り返しました。対話を試みるクリエイターの意見にはまったく耳を貸さず…。
重要なのはこれが「AI利用者」であった点です。
AIの大手開発者サイドは、比較的双方の意見を聞いてバランスを取ろうとしているのが見られた印象でした。
クリエイターを悪意を持って攻撃する利用者
そのような対立もあったためか、クリエイターの作品を無断でAI学習に利用した旨をわざわざ本人に伝わるよう、悪意のある書き方でツイートする利用者が現れました。
引用リンク:Togetter AI生成職人「みんなも〇〇(作家名)の画風で絵を24秒で描いてskebでお金儲けしようぜ!」
また、生成AI反対の声をあげる作家に誹謗中傷のリプライを送る、嫌がらせをするAI推進派がSNSでは頻繁に目撃されます。
生成AIを推進したいというより、すごい技術を手に入れて浮かれている・クリエイターを苦しめることを趣旨としている利用者が一定数いる様子です。
AIの不都合な部分を隠して広める利用者
よく見るのが副業・情報商材系アカウントと組み合わせている人です。
AIを利用して簡単に大金を稼ごう!という文句でAIに詳しくない人を取り込もうとしています。
単純にこういったアカウントは前からあり問題でしたが、AIという技術を説明無しに布教している点で危険です。利用した人に何があっても責任は取らないでしょう。
他にも、生成AIを利用したフェイク画像や映像を流し、人々にデマを広げる人も居ます。
4.クリエイターのアイデンティティを揺るがす技術
反発理由の最も大きな点はこれではないかと私は考えています。
AI推進派からは『「絵描きという特権階級を失いたくないから」「個性を奪われたくないから」「仕事を失うから」反発するんだろうwww』
という発言がありますが、あながち間違いではないと思います。というか、
仕事を奪われる=生きれないことに直結
まずAIの発展によって仕事を奪われることは、単純にお金を稼げなくなり生活できなくなる不安に繋がります。
クリエイターは長年、時間や努力を費やして技術を確立し、その技術を売ることで生計を立てるのですから反発が起きるのは当然です。
歴史的に見れば絵画が写真に、タイプライターが印刷業に、裁縫業が工業製の大規模なものになったことで職を失った人がいます。
この流れを考えればいずれクリエイターも一部分はそうなるとは思いますが、生成AIは私達が生み出した商品を素材にし、あまつさえ模倣までもが作られます。
今までのシェアの移り変わりとはちょっと違うのです。
個性を蹂躙される
クリエイターでも特に絵師やイラストレーターは絵柄・個性が商品価値となります。
生成AIはこの個性だけを模倣し、成りすましてしまう問題をはらんでいます。
有名な絵師の最新作だと思ったらAIだった。
有名なイラストレーターがこんな酷い絵を描いている!!(実は生成AIで出力した赤の他人のもの)という誤解が生まれる可能性も起きます。これは営業妨害に繋がるでしょう。
さらに酷いことに、最近は高クオリティの絵がAIと疑われる逆説的な風評被害まで起き始めています。
仕事と趣味、両方の創作活動に影響がある
創作を仕事にしていない人でも、趣味として行っている人は多いはずです。AIはどのどちらにも影響を及ぼしているため反発が大きいと考えられます。
AI将棋やAIチェスは成立します。それは単に勝負相手としての形のないものだからです。
絵画などの創作活動はその人の表現方法や個性が主体となり、そこに著作権も発生します。
生成AIはその表現・個性など個人が培ってきた技術の上澄みを奪い、成りすますことまでを可能にします。そう考えると、警戒したり不快に思うのは当然のことでしょう。
まとめ
絵師や絵描きが生成AIに拒否感を持つのには以下の理由が考えられました。
- 法整備の遅れ
- 学習方法とデータベースの問題
- 生成AI利用者のモラルが低い問題
- クリエイターのアイデンティティに関わる問題
特に法整備、学習方法の部分はクリエイター活動に関わってくるため重要視している人が多いのでしょう。
モラルの低い開発者・利用者を取り締まれるような法律ができれば…。何かトラブルが起きた時対応できる環境になれば、もう少し反発は収まると感じます。