デジタルツールの普及で誰もが作品を作り発信できる時代になりました。
日本は「表現の自由」の下、何を描いても基本的には許される国です。
しかし、作品を発表する場所・作品の用途によっては注意すべき絶対的なルールが存在します。
この記事では、作品制作で注意すべきタブー表現をいくつか紹介していきます。
勉強中の絵描きやデザイナーさん、発注側の方の参考になれば幸いです。
国際的に注意したいタブー表現
赤十字マーク
最も有名なタブー表現です。
赤十字や自衛隊の衛生部隊など、使用が認められている組織以外がこのマークを使うことは法律で禁止されています。(ジュネーブ条約)
かなり強い禁止事項なのでうっかりでも作品に使わないように注意しましょう。
なお、イスラム教の諸国では十字の代わりに「赤新月(せきしんげつ)・レッドクリスタル」が主に使われています。赤十字と意味は同じですので注意してください。
赤十字マークの意味と約束事 日本赤十字社
宗教に関するマーク
十字架や月星など、つい使いたくなるモチーフが多いのが宗教関連のマークです。
しかし、安易な使い方によっては差別的な意味合い、宗教を冒涜する意味合いだと勘違いされる可能性があるため、マークの成り立ちや使い方を学んでおく必要があります。
代表的なもの
ラテン十字 | キリスト教のシンボル | |
六芒星 | ユダヤ教のシンボル | |
星と三日月 | イスラム教のシンボル | |
ケルト十字 | ケルト系キリスト教のシンボル |
政治に関するマーク
歴史上で忌避されるマークや、現在でも差別的な運動に関わるものです。
使うことで、作品に誤った主義・主張を帯びさせてしまう危険があります。
代表的なもの
ハーケンクロイツ | ナチス・ナチズムのシンボル | |
ハーケンクロイツ | ナチズムのシンボル | |
ルーン文字(SS) | ホロコーストに関与した親衛隊のバッジのデザイン | |
ルーン文字3種 | オダル・生・死の文字。ナチス関連で使用された過去がある |
特にハーケンクロイツは日本の「お寺」の地図記号「卍(まんじ)」と似ているため、向きや見え方には注意してください。
旭日旗(きょくじつき)
大日本帝國軍が使用していた軍隊の旗のデザインです。
日本では大漁旗など縁起の良いイメージでも使われる表現なのですが、海外の人も見る作品では使わないほうが賢明です。
大戦の時代、日本軍の侵攻を受けたり植民地になった国の人に不快感を与える可能性があります。
デザインに使いたい場合
表現としてはとても一般的で、日本国内の商品や海外で気にしない国では使われています。
配慮しながら近い表現にしたい場合は、
- 放射状の線+中心に太陽の構成を避ける
- 放射線の上にキャラや文字を配置して見える面積を減らす
- 赤(または赤に近い色)と白の2色以外の色にする
- 放射線を短くする
- 放射線のみにする
- 放射線の始点・終点をぼかす
など工夫をして旭日旗に酷似しないようにしましょう。
人種や性別によるステレオタイプ表現
作品の内容によってはセーフとアウトが分かれる難しい表現ですが、現状かなり注意深く扱われている表現だという事は覚えておいてください。
人種によるステレオタイプ
- 「黒人とスイカのステレオタイプ」有名な人種差別的表現
- 黒人の髪型がアフロ、唇が厚い
- ラテン系や黒人の職業、服装がヒップホップ
- アジア系は黒髪で糸目
- 白人は金髪青眼
分かりやすいものはこの辺りでしょうか。
「◯◯といったらこうだ」という人種による偏見が不適切な表現となります。手癖で描かないように注意しましょう。
性別によるステレオタイプ
- CM等における家事をする妻、会社に行く夫という表現
- 女性だけエプロンを付けている
- 男性だけ作業着を着ている
- 女の子の服はピンク色、男の子の服は青色
- 女の子はお人形遊び、男の子はミニカー遊び
- 男性はたくましく、女性はか弱い
- 女性は服のボディラインがくっきり出ている(性的に描かれる)
しっかりとした意図や文脈がなく、なんとなくこういった選択肢を取っている場合は再考の余地がありそうです。
日本では特に女性に関する表現方法で炎上がよく起きています。
ハンドサイン・ジェスチャー
国や地域によってポーズや手の形がタブー表現となる場合があります。
キャラクターを描く時など、ポーズを考える段階で避けるべき表現を調べると安全です。
有名な注意すべきハンドサイン
- 中指を立てる
- 手の甲を見せたピース(裏ピース)
- 普通のピースサイン
- 小指を立てる
- 親指を立てる(サムズアップ)
- 親指を下に向ける(サムズダウン)
- OKサイン
「え!それもダメなの?」と驚くかも知れませんが、あくまでも地域によって意味合いが変わるということです。
日本では問題ない何気ないサインがタブーだったりしますので、作品制作のほか、海外旅行時にも注意が必要です。
してはいけないジェスチャー!海外で使用NGジェスチャー11選 All About
要注意!海外で思わぬ誤解を招く日本人のハンドサイン 東京海上日動
国内で注意したい表現
ヘルプマーク・マタニティマークなどに酷似すること
数年前、ヘルプマークに酷似したアーティストのライブグッズが誤認を招く恐れがあるとして話題になりました。
実際に使用している方の生命や健康に関係し、公共性も高いマークは気軽に使うべきではありません。
マタニティマークも稀にパロディグッズを見かけますが、個人や身内で楽しむ範囲で収めたほうが良いと感じます。
商標登録されている企業ロゴ
企業ロゴを作品内でアレンジしている物をよく見かけますが、基本的に商標登録されているロゴの改変は認められていません。
発表の場所、用途によっては企業の印象を損ねている、権利侵害であるとして咎められます。特に金銭が発生する商用作品では注意すべきです。
一部の家紋
実は使ってはいけない家紋がある
家紋は数万個以上あり基本は自由に使えますが、その中で使用しない方が良い・控えたほうが良いとされる物が5種類あります。
- 商標登録されている家紋(独占家紋)
- 菊花紋章
- 桐紋
- 三つ葉葵
- 有名戦国武将の家紋
商標登録されている「独占家紋」とは、企業のロゴマークなどに組み込まれている家紋です。
代表的なものでは島津製作所の「島津家の家紋」、ミツウロコグループの「三つ鱗」、三菱グループの「三階葵」と「三つ柏」などがあります。
菊花紋章は言わずと知れた皇室の紋章です。特に規制はないですが使用を控えるのが暗黙のルールとなっています。
桐紋も皇室や日本政府に関係の深い家紋です。特に強い規制はなく、民間の商品や晴れ着などにも使われていますが、一応国を代表する家紋なので不適切な表現には用いないほうが良いでしょう。
三つ葉葵は徳川の家紋で有名な葵紋のことです。こちらは徳川ミュージアムが登録商標を持っているため、商用で使う場合は注意が必要となります。
有名な戦国武将の家紋についても強い規制はありませんが、使用者に血縁関係や使用理由の説明を求められる場合があります。やはり有名な家系のイメージに関わりますので、使用には慎重になった方が良いと感じます。
過度なオタク的・サブカル的な表現
これは定義やラインが曖昧で長年紛糾している話題なのですが、令和時代においては一応考慮した方がトラブルは少ないと感じるため、ここに記載します。
TPOに合った表現レベルを心がける
オタクやサブカルに親しみのあるクリエイターはそうではない消費者と感覚がずれてしまうことがあります。
「これくらいなら大丈夫だろう」と思って発表した作品が炎上することも珍しくありません。
こちらは古いニュースですが、私が今まで見てきた炎上の中ではダメなパターンだなと感じたニュースです。
求められたニーズと世間からの印象、作者の表現が噛み合わなかった例として参考にできます。
イラストレーターさんは力を惜しむことなく、誠実に、自分の得意な表現を発揮されたのだと思います。しかし、これがすべての世代・性別・属性に向けて広く使われるキャラであるという視点が弱かったのではとも思います。
理解ある仲間内で楽しむ表現レベルと、万人に見せられる表現レベルを使い分けられるようになると安心です。
日本の表現規制は世界に比べてだいぶゆるいと心がける
こちらも日本に住んでいてサブカルに囲まれて育つと麻痺しがちなのですが、海外では表現規制のルールが遥かに厳しく設定されています。
海外向けに作品を作ったり、海外の人が見られるSNS等で作品を発表する時は、「あちらの国ではどのように受け取られるだろう?」と一考することも大事です。
下手をすると法律に抵触し、何らかのペナルティを受ける可能性もあります。
まとめ
このようにデザイン・イラストには使ってはいけないモチーフや表現があります。
タブーを意識することで不要なトラブルを防ぐことができます。また、大前提として著作権や商標権などの知識も合わせて必要です。
絵描きやデザイナーが知っておいた方が良い法律、決まりは他にもたくさんありますので、機会があれば一度じっくり座学をするのをおすすめします。